佐伯 1998 年 2 月 13 日
一、法解釈の仕方について、次の用語を用いて、説明しなさい。類推解釈、拡張解釈、縮小解釈、文言解釈、目的論的解釈
二、次の判決を論評しなさい。
1 上村耕作を被害者とする業務上過失致死罪の成否について一、二審の認定によれば、被告人らが業務上の過失により有毒なメチル水銀を含む工場排水を工場外に排出していたところ、 被害者の一人とされている上村耕作は、出生に先立つ胎児段階において、 母親が右メチル水銀によって汚染された魚介類を摂食したため、 胎内で右メチル水銀の影響を受けて脳の形成に異常を来し、 その後、出生はしたものの、健全な成育を妨げられた上、 一二歳九か月にしていわゆる水俣病に起因する栄養失調・ 脱水症状により死亡したというのである。 ところで、弁護人大江兵馬の所論は、右の通り上村耕作に病変の発生した時期が出生前の胎児段階であった点をとらえ、 出生して人となった後の同人に対する関係においては業務上過失致死罪は成立しない旨主張する。 しかし、現行刑法上、胎児は、 堕胎の罪において独立の行為客体として特別に規定されている場合を除き、 母胎の一部を構成するものと取り扱われているものと解されるから、 業務上過失致死罪の成否を論ずるに当たっては、 胎児に病変を発生させることは、人である母胎の一部に対するものとして、 人に病変を発生させることにほかならない。 そして、胎児が出生して人となった後、 右病変の起因して死亡するに至った場合は、結局、 人に病変を発生させて人に死の結果をもたらしたことに帰するから、 病変の発生時において客体が人であることを要するとの立場を採ると否とにかかわらず、同罪が成立するものと解するのが相当である。 したがって、本件においても、前記事実関係のもとでは、 上村耕作を被害者とする業務上過失致死罪が成立するというべきであるから、 これを肯定した原判断は、その結論において正当である。
(二、四、五につき)刑法二二一条前段 (昭和四三年法律第六一号による改正前のもの) 業務上必要ナル注意ヲ怠リ因テ人ヲ死傷ニ致シタル者ハ三年以下ノ禁錮又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス重大ナル過失ニ因リ人ヲ死傷ニ致シタル者亦同シ