現代物理学試験問題

担当:北原和夫、1998 年 2 月 12 日 2 限
参考書、講義ノート持ち込み不可
回答用紙一人三枚(各問一枚ずつ)

以下の 5 問から 3 問を選択して回答せよ。

問題 1

体積 2V の箱の中央に仕切をおき、一方に理想気体を入れ、 他方を真空にする。箱と外界との間には熱の出入りはないようにしておく (断熱条件)。中央の仕切を取り去ると、 気体は 2V の体積全体に広がる。この間に熱の出入りがないので、 気体が広がる前と後とではエントロピーの変化はない、といえるか。 もし、変化しているとすれば、どれだけ変化しているのか。 公式 ΔS = Q/TQ は受けた熱量) を用いて評価せよ。ボルツマンの公式 S = kB ln WW は微視的状態の数)から得られる結果と比較せよ。

問題 2

溶液中の溶質粒子のブラウン運動の模型として、 溶質分子は一次元運動をするものとし、その速度を u とする。 運動方程式は
du/dt = -γu + R (t)/m
で与えられるものとする。m は質量、右辺の -γu は溶媒による抵抗が速度に比例することを表し、R (t) はランダムな力である。R (t) の統計的性質は、 平均値に対する以下の式で表される。 ここで、δ(t -t' ) はデルタ関数であり、 という性質を持つ。 上の運動方程式が平衡状態における速度の揺らぎを表すものとすると、 常に 〈u (t)2〉 = kBT/m でなければならない。 すなわち、
u (t)2〉 = 〈u (0)2〉 = kBT/m
である。このことより、 Du = γmkBT を導け。

問題 3

さらに溶質分子の変位 x について、
x (t) - x (0) = ∫0t dt' u (t' )
より、
〈[x (t) - x (0)]2〉 = (2 kBT/2) (γt + e-γt-1)
を導け。γt の関数として変位の外形を図示し、 γt≪1、γt≫1 の場合について、 その時間依存性の理由を説明せよ。

問題 4

Lotka-Volterra 系
dx/dt = x - xy
dy/dt = xy - y
の定常状態(dx/dt = dy/dt = 0 となる点) を求め、その近傍で x (t)、y (t) がどのように振る舞うのかを述べよ。 また、x>0、y>0 において x (t) + y (t) - ln x (t) - ln y (t) が時間変化しないことを示せ。 これより、二つの解は一般に交差しないことを説明せよ。

問題 5

下方を熱い板、上方を冷たい板で挟まれた流体において、 熱伝導状態から対流状態への転移はレーリー数 R = βgαd 4 / で決まる。ここで、d は上下の板の間隔、 β = ΔT/d は温度勾配 (上下温度差を間隔 d で割ったもの)、g は重力加速度、 α は熱膨張率、D は熱拡散係数、 ν は動粘性係数である。 R の表式の分子に表れているパラメータが熱伝導状態の不安定性に寄与し、 分母に表れているパラメータが安定性に寄与するのは何故か。 直感的な説明を与えよ。
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