「構造化学」試験(永田)

注意

  1. 試験時間は 75 分とする。
  2. ノート、プリント、教科書などの持ち込みは禁ずる。
  3. 答案用紙は 1 枚とし、裏も使用してよい。

問 1

多電子原子に関して以下の問 i〜iii に答えよ。 但し、水素様原子の軌道エネルギーは
E = -Z 2mee4 / 8ε0h2n2 ……(1.1)
で与えられる。また、水素原子の 1s 軌道のエネルギーは -13.6 eV である。
  1. Li2+ イオンのイオン化エネルギーを eV 単位で求めよ。
  2. Li 原子のイオン化エネルギーを eV 単位で求めよ。 但し、Li 原子の 2s 軌道に対する有効核電荷は 1.26 である。
  3. i および ii で求めた二つの値から Li+ イオンのイオン化エネルギーの大凡の値を予想せよ。 また、どのような根拠に基づいて予想したのかを 2〜3 行程度で簡潔に記せ。

問 2

水素分子イオン H2+ の結合性分子軌道は LCAO 近似を用いて次のように表される。
ψ = N (ψ1sA + ψ1sB) ……(2.1)
但し、ψ1sAψ1sB は水素原子核 A、B の周りの 1s 波動関数であり、規格化されているものとする。
  1. (2.1)式の波動関数を規格化せよ。但し、
    S = ∫ψ1sAψ1sB dτ ……(2.2)
    とする。

  2. (2.2) 式の積分 S は何と呼ばれるか。また S の値はどんな範囲をとるか。

  3. (2.1) 式で表される分子軌道のエネルギーが
    E = EH + (J' +K' )/(1+S )
    と表されることを示せ。ここで、EH は水素原子の 1s 軌道エネルギーである。また、 H2+ のハミルトニアンは
    H = - (h' 2/2me)∇2 - e2/rA - e2/rB + e2/R ……(2.3)
    となる。ここで、me は電子の質量、 rArB はそれぞれ 核 A、核 B から電子までの距離、 R は核 A、B 間の距離である。 (編注: 原文中で使われていた h bar という活字がないので、ここでは h' で代用しています。h' = h/2π。) 軌道エネルギーは (2.1) 式の波動関数と (2.3) 式のハミルトニアンを用いて
    E = ∫ψHψ dτ
    と計算される。計算に際しては、 ψ1sAψ1sB が水素原子の 1s 波動関数であることから
    (-(h' 2/2me)2 - e2/rA)ψ1sA = EHψ1sA
    (-(h' 2/2me)2 - e2/rB)ψ1sB = EHψ1sB
    となることに注意し、さらに以下の積分を用いること。
    クーロン積分 J' ≡ ∫ψ1sA(-e2/rB + e2/R )ψ1sA dτ
    交換積分   K' ≡ ∫ψ1sA(-e2/rA + e2/R )ψ1sB dτ

  4. iii で求めた結合性分子軌道のエネルギーは核間距離 R と共にどのように変化するか。簡単に図示せよ。

問 3

等核二原子分子に関して問 i〜iv に答えよ。
  1. 下図の (a)(e) は二つの 2s 原子軌道または 2p 原子軌道を重ね合わせて二原子分子の LCAO 分子軌道が形成される様子を模式的に表したものである。 それぞれの重ね合わせによって形成される分子軌道の形を図示し、 軌道の対称性に注意して σg などの記号を付せ。 また、これらの中で反結合性軌道を形成するのはどの重ね合わせか。
    	 (a)       (b)        (c)      (d)      (e)
    	● + ○    ●○ + ○●    ●○ + ●○   ●   ○    ○   ○
    	                              ○ + ●    ● + ●
  2. 右図(編注: ここでは下図)は酸素分子 O2 のエネルギー順位図である。spin-up(↑)と spin-down(↓)の記号を用いて電子配置を書き込め。 (解答用紙にはエネルギー順位図も書くこと) この電子配置から O2 分子の結合次数を求めよ。 また、電子配置の特徴から O2 分子はどのような性質を持っていることが期待されるか。
    		     |----------|2pσ*
    		     |==========|2pπ*
    		-----|          |--------- 2p
    		     |==========|2pπ
    		     |----------|2pσ
    		 
    		     |----------|2sσ*
    		-----|          |--------- 2s
    		     |----------|2sσ

  3. s-p mixing(2s 軌道と 2p 軌道の重なり) の効果を考慮して窒素分子 N2 のエネルギー順位図を図示せよ。さらに spin-up(↑)と spin-down(↓)の記号を用いて電子配置を書き込め。

  4. Be 原子の価電子配置は 2s2 である。 Be2 分子の結合について考察せよ。 (ヒント: 結合次数はいくつか)

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