y'' + p (x)y' + q (x)y = 0という方程式を扱います。前の §2.1〜§2.2 のケースと違って、ここでは p (x)、q (x) は x の関数です。
この形の方程式の場合、§2.1 のように左辺を (d/dx - λ1)(d/dx - λ2)y と因数分解するのは非常に困難です。 というのは、p (x) と q (x) が変数係数ですから、当然ながら λ1、 λ2 は x の関数になるわけですが、 次のふたつの式は一般には同じものにはならないからです。
(d/dx - λ1)(d/dx - λ2) = (d/dx)2 - λ1(d/dx) - (d/dx)λ2 + λ1λ2
(d/dx - λ2)(d/dx - λ1) = (d/dx)2 - λ2(d/dx) - (d/dx)λ1 + λ1λ2
実は、§2.1 でこの因数分解が簡単にできたのは、λ が定数だったために (d/dx)λ = λ(d/dx) という条件が成り立っていたからなのです。
を利用して解きます。(ここで、y(0), y'(0), ... は、 x = 0 のときの y, y' ... の値を表します; 以下同じ。) つまり、元の方程式から y (0), y'(0), y''(0), ... の値がわかれば、それを使って上のような級数として y(x) を書き表すことができます。y (x) = [y(0)/0!] + [y'(0)/1!]x + [y''(0)/2!]x2 + [y'''(0)/3!]x3 + …
それでは、具体的に例題を見ていきましょう。
これは §1.1 でやった変数分離形の方程式ですが、 ここではテーラー展開を利用した方法で解いてみます。【例題】y'' - 2y = 0
この式だけでは、y(0) の値を知ることはできません。 しかし、y'(0), y''(0), ... は、y(0) を使って表記することができます。具体的にいうと、
ですから、y (x) は次のように書けます。y'(0) = 2y(0)
y''(0) = 2y'(0) = 4y(0)
y'''(0) = 2y''(0) = 8y(0)
:
そして最後に、公式 et = Σn=0〜∞ tn/n! を使って、y(x) = y(0) + 2y(0)x + 4y(0)x2/2! + …
= y(0)Σn=0〜∞ 2nxn/n!
= y(0)Σn=0〜∞ (2x)n/n!
とわかります。y(x) = y(0)e2x
もちろんこの結果は、§1.1 の方法で解いた結果と同じになります。
この式から、y(0) と y'(0) がわかれば y''(0) がわかり、さらにそこから y'''(0) がわかり… というふうになることがわかります。y'' = -p(x)y' - q(x)y
さて、ここで問題が生じます。上の計算では、y''' を求めるために両辺を微分すると、y だけでなく p(x) や q(x) も微分します。従って、p(x) と q(x) が x = 0 において何度でも微分可能な場合でないと、この方式は使えないということになります。
実は、p(x) と q(x) がともにテーラー展開可能ならば、y は必ず
という形で表せます。このことを確認しておきましょう。y(x) = Σn=0〜∞cnxn
まず、
とおきましょう。p(x) = p0 + p1x + p2x2 + p3x3 + …
q(x) = q0 + q1x + q2x2 + q3x3 + …
続いて、y の微分を計算しておきましょう。もし y = Σn=0〜∞ cnxn が収束するとすると、 級数の各項を別々に微分することができます。
y = c0 + c1x + c2x2 + c3x3 + …
y' = c1 + 2c2x + 3c3x2 + …
y'' = 2c2 + 6c3x + …
これらを元の方程式に代入し、定数項、x の項、 x2の項、… ごとにまとめると(各自で計算せよ)、
となります。ここで (*) を見ると、c0 と c1 はわかりませんが、c2 は c0 と c1 で表せることがわかります。 さらに、c2 がわかれば、(**) から c3 が決まります。以下、x2, x3, ... の係数を見ることによって、c4, c5, ... が、すべて c0 と c1 の式として決まります。定数項: 2c2 + p0c1 + q0c0 = 0 … (*)
x の項: (6c3 + 2p0c2 + (p1+q0)c1 + q1c0)x = 0 … (**)
:
ここでいくつか注意点を挙げておきます。
と書くことができます。この式は、y = c0×(x の式) + c1×(x の式)
と考えることができます。一般解 = c0×(c0=1, c1=0 の特解) + c1×(c0=0, c1=1 の特解)
【例題】(1-x2)y'' + 2y = 0 の、 x = 0 のまわりでの解を求めよ。
まず、y'' + p(x)y' + q(x)y = 0 という形にするために、両辺を (1-x2) で割ります。
そうすると、p(x) = 0、q(x) = 1/(1-x2) となります。ここで q(x) はy'' + 2y/(1-x2) = 0
とテーラー展開できます。したがって、x = 0 のまわりでは、解はq(x) = 2 + 2x2 + 2x4 + 2x6 + …
という形に書けることがわかります。y = Σn=0〜∞ cnxn
では具体的に計算しましょう。まずは y の微分を計算すると、
となります。これを (1-x2)y'' + 2y = 0 に代入すると、y = Σn=0〜∞ cnxn
y' = Σn=0〜∞ ncnxn-1
y'' = Σn=0〜∞ n(n-1)cnxn-2
となります。ここで第 1 項は、 k = n-2 とおくと、左辺 = (1-x2)Σn=0〜∞ n(n-1)cnxn-2 + 2Σn=0〜∞ cnxn
= Σn=0〜∞ n(n-1)cnxn-2 + Σn=0〜∞ [2-n(n-1)]xn
となりますが、これの k = -2 や k = -1 の項はゼロですから、k = -2〜∞ を k = 0〜∞ としてもかまいません。そこで、Σk=-2〜∞ (k+2)(k+1)ck+2xk
となります。これがすべての x についてゼロになるためには、左辺 = Σk=0〜∞ (k+2)(k+1)ck+2xk + Σn=0〜∞ [2-n(n-1)]xn
= Σk=0〜∞ [(k+2)(k+1)ck+2 + 2 - k(k-1)ck]xk
= Σk=0〜∞(k+1) [(k+2)ck+2 - (k-2)ck]xk
であればよいということになります。ck+2 = [(k+2)/(k-2)]ck
具体的に計算しましょう。この式だけでは c0 と c1 は決まりませんが、c2, c3, ... は c0, c1 で表すことができます。数値を代入してみると、
となります。y = c0(1-x2) - c1Σk=0〜∞x2k+1/(2k-1)(2k+1)
実はこの級数は初等関数として表せるのですが、 もし初等関数で表せない場合(そういうケースもよくあります; たとえば、授業で扱ったベッセルの方程式など)は、 この級数表示を解であると称してかまわないわけです。
さて、肝腎の収束判定法ですが、 もう忘れている方もいらっしゃると思いますので、ここにまとめておきます。 以下で、数列 {an } の各項は正の値ということにします。
[根拠]たとえば、「n ≧ 10 のとき an+1/an < 0.9」 ならば、a11 < 0.9a10、 a12 < 0.92a10、…、となるので、a10 + a11 + a12 + … < a10(1 + 0.9 + 0.92 + …) である。右辺は収束するので左辺も収束する。
[根拠]たとえば、「n ≧ 10 のとき n√an < 0.9」 ならば、a10 < 0.910、 a11 < 0.911、 a12 < 0.912、…、なので、 a10 + a11 + a12+ … < 0.910 + 0.911 + 0.912 + … は収束する。
さて、実際に上の例で計算してみましょう。問題の級数は、
でした。ここでは 1. の方法で判定します。{an} = {x2n+1/(2n-1)(2n+1) }
ですから、|x| < 1で収束、|x| > 1 で発散します。 (|x|=1 でも発散することは各自で確認してください。)an+1/an = x2(2n-1)/(2n+3)
したがって、この解は -1 < x < 1 のときに有効だということがわかります。この結論は、元の方程式において x = 1 で q(x) → ±∞ となることからも自然なものといえます。
では、|x| > 1 の場合の解はどうなるのでしょうか。
実は、そもそも
とおいたのが間違いだったのです。この式は、x = 0 の周りのテーラー展開ですから、x = 0 から連続な範囲でしか有効でないのです。y = Σn=0〜∞ cnxn
したがって、x > 1 での解を求めたければ、y をたとえば x = 2 のまわりでテーラー展開して、
とおかなければいけないのです。(元の方程式の p(x)、 q(x) には x = ±1 以外に特異点はありませんから、 どうやらこの解は 1 < x < ∞ で収束しそうです。y = Σn=0〜∞ cn(x-2)n
となることは上で見ました。 実は、上の第二項の級数は初等関数として表せるので、 そのことを示しておきましょう。y = c0(1-x2) - c1Σn=0〜∞x2n+1/(2n-1)(2n+1)
まずは、分母が n の二次式ですから、部分分数に分けます。
ですから、
x2n+1
------------
(2n-1)(2n+1)= ( 1
-----
2n-1- 1
-----
2n+1) x2n+1
-----
2
Σn=0〜∞ x2n+1/(2n-1)(2n+1)
= x/2 + (x3-x)/2 + (x5-x3)/2・3 + (x7-x5)/2・5 + …
= x/2 + [(x2-1)/2] (x + x3/3 + x5/5 + …)
ここで、
とおきます。分母の 3,5, ... を処理するために A を微分すると、A = x + x3/3 + x5/5 + …
ですから(注)、A' = 1/(1-x2) となります。 これを部分分数に分解してから、x = 0 のとき A = 0 となることに注意して積分すると、A' = 1 + x2 + x4 + x6 + …
= 1 + x2(1 + x2 + x4 + … )
= 1 + x2A
となります。これを元の式に代入して、A = (1/2) ln |(1+x)/(1-x)|
となります。Σn=0〜∞ x2n+1/(2n-1)(2n+1) = [(x2-1)/4] ln |(1+x)/(1-x)| + x/2
y = (1-x2)[c0- (c1/4) ln |(1+x)/(1-x)|] - c1x/2
(注)このような計算ができるのは、A' が収束しているからです。収束しない級数、たとえば B = 1 - 1 + 1 - 1 + … に対して計算順序の変更をすると、という、相矛盾した結論が出てきます。
B = (1-1) + (1-1) + … = 0 B = 1 - (1-1) - (1-1) - … = 1 - B =
1 - (1-1+1-…) = 1 - B なので、B = 1/2
確定特異点がある、とは、p(x)、q(x) が次のように表される場合をいいます。
p(x) = (x-a)-1 Σn=0〜∞ pn(x-a)n
q(x) = (x-a)-2 Σn=0〜∞ qn(x-a)n
たとえば、次のような方程式がこれにあたります。この例は a = 0 のケースです。
この式は、初期値が x = 0 でなければ、x = ±1 のまわりでテーラー展開して解けばうまくいくかもしれません。しかし、 x = 0 ではそうはいきません。【問題】y'' + y'/x + y = 0 の、 x = 0 のまわりでの解を求めよ。
このような場合、y を x の級数として表すのは同じなのですが、
という形におきます。y = Σn=0〜∞cn(x-a)n+λ (λ は定数)
以下、もう気力がないので(笑)、要点だけ箇条書きにしておきます。