Lektion 2.1

二階 定数係数 線形 常微分方程式 の解き方(斉次形)


2.1.0 二階 線形 常微分方程式 とは?

y'' + ay' + by = r (x ) という形の方程式です。 ここでは、特に ab が定数の場合を扱います。

薩摩先生は r = 0 の場合を「同次形」と呼んでおられますが、 ここでは §1.2 の同次形と区別するために「斉次形」と呼ぶことにします。

2.1.1 基本は因数分解

d/dx という微分演算子をあたかも数のようにみなして (この方法は構造化学でも出てきましたね)、この方程式を、 次のように書いてみましょう。
[ (d/dx)2 + a (d/dx) + b] y = 0
すると、こんなふうに因数分解できます。 (λ1λ2 は定数)
(d/dx - λ1) (d/dx - λ2)y = 0
これを満たす解がふたつ見つかれば (以下 y1, y2 とします; これを基本解 fundamental solutions といいます)、 一般解はそれの線形結合(c1, c2 を定数として、y = c1y1 + c2y2)になります。
注意:このように足し算できるのは、この方程式が線形 (y の一次式)で、かつ斉次(y のかかっていない項がない)だからです。一般の(非斉次 and/or 非線形の)微分方程式では、y1y2 が解であっても、y1 + y2 は解になりません。

具体的にいうと、

ですね(→§1.1)。 したがって、一般解は
y = c1 eλ1x + c2 eλ2x …(※)
となります。

2.2.2 λ の種類で分類してみると...

では、λ1λ2 はいくつになるのか? 当然、下の方程式を解けばいいわけです:
λ2 + + b = 0
この方程式を、固有方程式とか特性方程式とかいいます。 ちなみに λ のことは固有値といいます。 なぜそういうかというと、あとで行列が出てきて、 その行列の固有値がいま求めた λ になるからです。

さて、解の判別式を D = a2 - 4b とおきましょう。

  1. D > 0、 すなわち λ が二つの実数になる場合

    これは特に説明する必要はありませんね。 (※)が一般解になります。

  2. D < 0、 すなわち λ が二つの共役な複素数になる場合

    基本的にこれも上と同じです。ただし、λ が虚数になるので若干の注意が必要になります。

    仮に λ = μ ± iν としましょう。 eiνx = cos νx + i sin νx ですから、 次のように書くこともできます。

    y = c1 e(μ + iν)x + c2 e(μ - iν)x
     = c1 eμ (cos νx + i sin νx) + c2 eμx (cos νx - i sin νx)
     = eμx{ (c1+c2) cos νx + (c1-c2) i sin νx }
     = eμx(k1 cos νx + k2 sin νx)    (k1 = c1+c2, k2 = (c1-c2)i とおく)
    現実の問題では「y は実数」 という条件がついている場合がよくありますが、 だからといって c1 = c2 だと早とちりしないでください。 c1, c2 は実数とは限らないので、c1c2 が複素共役ならば y は実数関数になるということに注意してください。

  3. D = 0、すなわち、重解の場合

    上の方程式を単純に解けば λ = -a/2 ということになりますが、

    一般解は y = ce-a/2 ではありません!
    というのは、2 階の微分方程式の一般解には 2 つの任意定数が必要(例えば、もっとも簡単な 2 階微分方程式 y'' = 0 の解は y = c1x + c2 です)なのに対し、上の式にはひとつしかないからです。 何とかして、もうひとつの解を捜さなければいけません。

    その方法にはいくつかあります。 ひとつは、2 実数解の場合において λ2 = λ1 + ε とおいてテーラー展開し、後から ε→0 とする方法(注)、もうひとつは、 §1.3 でも使った定数変化法です。

    (注)テーラー展開で極限をとる方法は、 線形方程式の場合にのみ有効です。 非線形方程式では、この方法で極限をとっても、 出てきた式は元の方程式を満たしません。

    さて、上の式では e-a/2 の係数は定数でしたが、もうひとつの解は、この係数が 定数ではなく x の式になっていると考えます。

    具体的に求めてみましょう。y = A (x ) e-a/2 とおいて実際に元の微分方程式に代入してみましょう。

    (中略 - 各自で計算せよ(^_^;))
    結局、A (x ) = k1x + k2k1, k2 は定数) ならば元の微分方程式を満たすということが分かりました。

    ということで、この場合の一般解は y = (k1x + k2) e-a/2 です。

2.2.2' おまけ

この方程式は、行列を使って
d
---
dx
( y ) = ( 01 ) ( y )
y'-b-ay'
と書けます。上の a. と b. は、その行列を対角化できる場合、 c. は対角化できずに Jordan の標準形にするしかない場合なのです。 (このように行列を使う考え方は、さらに高階の微分方程式や、 連立微分方程式を解く場合に出てきます。→§2.3)

2.2.3 例題 - 電気回路

コンデンサ C、コイル L、抵抗 R を直列につないだ閉回路を考えてください。電源はつながっていません。

この回路の振る舞いを記述してみましょう。コンデンサにたまる電気量を Q、流れる電流を I とすると、コンデンサによる電圧降下は Q/C、コイルによる電圧降下は L・dI/dt、抵抗による電圧降下は RI で、 全部あわせてゼロになるので、

Q/C + L dI/dt + RI = 0
これを微分して L で割ると、
I'' + (R/L)I' + I/LC = 0
となります。

ここで 1/LC = ω02 とおきましょう。この ω0 を固有振動の角振動数といいます (あとで sin ω0t という関数が出てきます)。

(余談)バネ-質点系は電気回路で再現できる (等価な方程式を作れる)ので、 薩摩先生が顧問をつとめる物理学研究会では駒場祭などのイベントで何度か試みているのですが、 なかなかうまくいかないそうです。

さて、R = 0 の場合は非常に簡単です。これは b.(虚数解)の場合にあたるので、解は

I = c1 sin ω0t + c2 cos ω0t
となります。

つぎに、R > 0 の場合を考えます。 解の判別式は

D = R2/L2 - 4ω02
 = (4/τ2)(1 - ω02τ2)   (R/L = 2/τ とおく)
となります。
  1. D > 0 のとき

    λ1, λ2 = -(1 ± √D)/τ
    となります。ここで、λ1, λ2 はともにマイナスです。 そうでないと、無限に電流が増えることになり、 回路が火を吹きます(^_^;)。

    この状態は、R が大きいために 1 周期も振動せずに減衰 (過減衰)してしまうパターンになります。

  2. D < 0 の場合

    λ1, λ2 = -(1 ± √(-D)i)/τ
    となり、解は
    I = A0 e-t/τ sin (√(-D)t/τ + φ)
    A0φ は定数) という減衰振動になります。このとき、τ は 「回路の時定数」と呼ばれ、 減衰の度合いを示すパラメータになります。

  3. D = 0 の場合(臨界状態)

    解は

    I = (c1 + c2t) e-t/τ
    という式になります。 これは a. から b. へと移行するギリギリの状態で、 臨界振動と呼ばれます。

2.2.4 初期値問題の解とロンスキヤン・解の一意性

微分方程式が既に解けており(基本解を y1, y2 とする)、かつ、ある x0 での y および y' の値(y0 および y'0 とする) が与えられているとします。

そうすると、連立方程式

y0 = c1 y1(x0) + c2 y2(x0)
y'0 = c1 y1'(x0) + c2 y2'(x0)
を解いて係数 c1, c2 を求めることになります。これについて詳しく見てみましょう。 この連立方程式は行列を用いて
( y0 ) = ( y1(x0) y2(x0) )( c1 )
y'0 y1'(x0) y2'(x0) c2
と書けますね。 これは 2 階の方程式に限らず 3 階でも 100 階でも同じことです。

さて、これは、理論上は以下のように解けます。(クランメールの公式。 ただし、実際の計算にはガウスの掃き出し法を使います。)

c1 = | y0 y2(x0) | ÷ | y1(x0) y2(x0) |
y'0 y2'(x0) y1'(x0) y2'(x0)
c2 = | y1(x0) y0 | ÷ | y1(x0) y2(x0) |
y1'(x0) y'0 y1'(x0) y2'(x0)
さて、この分母の行列式が 0 でなければ、 この方程式は一意な解を持つことになります。 そこで、行列式
W(x ) = | y1y2 |
y1'y2'
には特別な名前がついています。「ロンスキー(Wronski)の行列式」とか 「ロンスキヤン(Wronskian)」とかいいます。

言い換えれば、W(x0)≠0 ならば c1, c2 は一意に定まります。

さて、ここで疑問が生じます。「どこかの xW (x ) がゼロになったら困るのではないか?」

でも、心配はいりません。実は、W (x0)≠0 ならば、x がいくつになっても W (x )≠0 になるのです。(注:W (x ) = 0 というのは、 y1y2 がそもそも独立な解でないという意味です!)

さて、これから、 2 階の場合に限って証明しましょう。関数 y1(x)、y2(x) を元の方程式に代入して、

y1'' + ay1' + by1 = 0 …(*)
y2'' + ay2' + by2 = 0 …(**)
になります。ここで、 (**)×y1 - (*)×y2 を計算すると、
(各自で計算せよ(^_^;))
W' (x ) + aW (x ) = 0、これを解いて W (x ) = k e-ax となります。 そのため、W (x0)≠0 ならば k≠0 であり、したがってどんな x でも W (x )≠0 になります。

解の一意性についてもふれておきましょう。初期値問題を解いていると、 「同じ方程式・同じ初期値を満たす関数が複数存在するのではないか?」 という疑問が生じます。その可能性はないということをこれから説明します。

仮に、同じ方程式・初期値をみたす解がふたつ存在したとします。 これを P (x )、Q (x ) としましょう。 そこで、次のような行列式を考えます。

A (x ) = | P Q |
P' Q'

さて、上のロンスキヤンの場合とまったく同じ理屈で、 A(x ) = ke-ax となります。 P (x0) = Q (x0) = y0P' (x0) = Q' (x0) = y'0 ですから、 A(x0) = 0 となり、したがって A (x ) は x がいくつであっても 0 になります。

ということは、ふたつのベクトル (P, P' ) と (Q, Q' ) は線形独立ではない、 すなわち、P = cQc は定数)ということになります。 ここで P (x0) = Q (x0) という条件がありますから、c = 1、 P = Q となります。 要するに、解は一つしかないのです。

2.2.5 境界値問題

さて、いままで解いてきたのは初期値問題、すなわち、ある x での yy' の値が与えられたときにそれを満たす関数を求めることでした。 それとは別のタイプの問題もありますので紹介しておきましょう。 「境界値問題」というやつです。 (「構造化学」でもやりましたね)
【問題】関数 y (x ) が y'' + k2y = 0 を満たすとする。 さらに、y (0) = y (1) = 0 とする。 このとき y を求めよ。
この方程式の一般解は y = c1 cos kx + c2 sin kx です。 ここで、y (0) = 0 なので c1 = 0 とわかります。

さて、それを元の式に代入して、さらに x = 1 を代入してみましょう。

0 = c2 sin k
したがって、上の微分方程式は、k = nπ (nZ)のときだけ解を持ちます。 この k = nπ をこの問題の固有値、 y = c2 sin kx を固有関数といいます。

【この章のまとめ】

  1. y'' + ay' + by = 0 という方程式は、 (d/dx - λ1) (d/dx - λ2)y = 0 と因数分解する。一般解は y = c1eλ1x + c2eλ2x
  2. 上の因数分解で重解になる場合は、一般解は y = (c1 + c2x)eλx
  3. λ が虚数 μ ± iν になる場合は、一般解は y = eμx (c1 sin νx + c2 cos νx)。 とくに、y'' = -k2y の解は y = c1 cos kx + c2 sin kx
  4. 解についてのつっこんだ議論をするために、 ロンスキヤンというものを利用すると便利らしい。

Copyright © IIJIMA Hiromitsu aka Delmonta, 2016/03/10 15:09 JST
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