常微分方程式というのは偏微分方程式と対立して使われる言葉で、 独立な変数がひとつだけ(ここでは x だけ) の微分方程式を指します。逆に偏微分方程式とは、 独立な変数がふたつ以上あって、 ∂f /∂x や ∂f /∂y などを使った微分方程式をいいます。
変数分離形というのは、次のような形をした式のことをいいます。
y' = (x だけの式)×(y だけの式)
で、この形の式は、次のように変形すると、簡単に積分できます。
あとはこの両辺を x で積分すれば完了です。とはいえ実際には、 (dy/dx )dx = dy (置換積分)ですから、 左辺では ∫dy/(y だけの式) という計算をすることになります。あるいは、元の方程式を形式的に dy /(y だけの式) = (x だけの式) dx と変形してから両辺に積分記号 ∫ をかぶせると考えても結構です。
1
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(y だけの式)× dy
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dx= (x だけの式)
さて、こうして積分してきた結果の式には、積分定数 C が含まれています。このように、不定な係数を含んだ状態の解を 「一般解」といいます。通常は、一般解を求めた後で、他の条件 (たとえば「x = 0 のとき y = 2」など)から定数 C の値を求めることになります。
では例題です。「y' = 3y」 を解いてみましょう。
これは、上のように式変形して、
となりますから、以下、次のように計算できます。∫dy/y = ∫3dx
loge |y | = 3x + C
|y | = Ae3x (A = eC )
さて、上の式には |y | というものがありますが、 |y | の符号は x の値によらず一定ですね。というのは、たとえば x = 1 で y > 0 で、 x = 2 では y < 0 だったとすると、 1 < x < 2 のどこかで y = 0 になります。 すると、x を 1 から 2 へ動かしていくと、 |y | がいちど小さくなり、また大きくなるという現象が起こります。 ところが |y | は上の式から分かるように単調増加ですから、 このようなことは起こらないはずです。
これを利用して絶対値記号を外すことができます。 上では A > 0 でしたが、A が負の値をとってもかまわないということにすれば、 次のように書けます。 これを実際に元の方程式に代入して、正しいことを確認してください。
y = Ae3x
なお、この y' = ky という形の方程式は後から何度も出てきますので、 ここでしっかり覚えておいてください。
なお、薩摩先生は §1.3 や §2.1 の「斉次形」 のことも同次形と呼んでいますが、 まぎらわしいのでそちらは斉次形と呼ぶことにします。
さて、同次形の方程式を解くには、まず
と置きます。u = y/x
となりますから、元の式は y のかわりに u を用いて、u' = y'/x - y/x2
u'x = y' - u
y' = u'x + u
となります。これは §1.1 で述べた変数分離形ですから、簡単に解けますね。u'x + u = f (u )
u' = [ f (u ) - u ] / x
【問題】y' = 2xy / (x2 + y2) の一般解を求めよ。
(これは授業で扱った例題ですが、 分数式の入力が面倒なので私の資料では演習問題扱いとします。)
上の表題にある「線形」というのは「y の一次式になっている」 という意味、また、「非斉次」というのは「y のかかっていない余分な項 q (x ) がある」という意味です。 なお、「一階線形の斉次方程式」というのは変数分離形の一種です(笑)y' + p (x )y = q (x )
ですから問題は、「どうやって余分な q (x ) を消去するか」に集約されます。ここではふたつの方法を紹介します。 この方法は 2 階以上の方程式にも使いますので、よく覚えておいてください。
例題として、電気回路を考えましょう。抵抗 R、コイル L、 交流電源 E sin ωt を直列につないだ回路を考えます。 そうすると、回路の方程式は下のようになります。 (電気は分からない、あるいは忘れてしまった、という人は、 とりあえずそういうものなのだと割りきって、聞き流してください。)
なお、授業では dI/dt を I の上に点を打った形で書いてありますが、 ここでは面倒なので I' と書くことにします。L dI/dt + RI = E sin ωt
さて、まずは I のかかっていない項 E sin ωt を無視して解きます。
これは §1.1 の変数分離形ですね。計算は省略しますが、これを解くと、LI' + RI = 0
となります。I = A e-(R/L )t
さてここで、A を定数ではなく t の式であると見なして、 一番はじめの式に代入します。
両辺を L で割って左辺の微分を実行し、さらに整理すると、L [ A(t ) e-(R/L)t ]' + RA(t )e-(R/L)t = E sin ωt
あとはこれを積分すればいいわけです。計算は省略します。[ -(R/L)A(t ) + A' (t) + (R/L)A(t ) ] e-(R/L)t = (E/L) sin ωt
A' (t ) = (E/L) e(R/L)t sin ωt
P.S. ちなみに、こういう交流回路の問題では、実際上は、 微分方程式にするよりも、複素インピーダンスを使うほうが簡単です。 (→実験教科書 §19)
という形の方程式です。y' + p (x )y = q (x ) yn (ただし、n≠1)
この形の方程式は、u = y1-n とおくと、§1.3 の線形方程式に帰着できます。実際に計算してみましょう。
これを元の方程式に代入して、u' = (1-n ) y-ny'
y' = u'yn/(1-n)
両辺を yn で割り、それから、p (x ) の項に出てきた y1-n は u そのものであることに注意すると、u'yn/(1-n) + p (x )y = q (x )yn
となり、u についての線形方程式になりました。u'/(1-n) + p (x )u = q (x )
例題は §1.5 でやりますので、ここでは省略します。
y' + p (x )y2 + q (x )y + r (x ) = 0
したがって、この方程式の解き方は §1.3 と同じように、どうやって r (x ) を消去するかがキーポイントです。 そして、その方法も、基本的に §1.3 と同じです。
ちなみに、上の方程式は実用上いろいろ重要(専門の学会が開かれるほど) だそうで、たとえば動画中の物体の移動速度を推定する技術などに使われているそうです。
【例題】y' + y2 + y/x - 1/x2 = 0 を解け。
この式をじっとにらみます(笑)。 まずは、y = axn という形の特解がないかどうか探してみます。 -1/x2 という項がありますから、他の項が同じく 1/x2 の定数倍になるように、 n = -1 としましょう。そうすると、a = 1 が解になっていそうです。計算してみると、 確かに y = 1/x は解ですね。
ここで、y = u + 1/x とおきます。 これを代入して計算すると、
となり、余分な項がなくなりました。このように y = u + (特解) とおく方法は、§1.3 の線形方程式や、 §2.2 の二階線形方程式などにも有効です。(u' - 1/x2) + (u2 + 2u/x + 1/x2) + (u/x + 1/x2) - 1/x2 = 0
u' + 3u/x + u2 = 0
さて、これは §1.4 のベルヌーイ形の方程式ですね。そこでここでは、 t = 1/u とおきます。
t' = -u'/u2 すなわち u' = -u2t'
代入して -u2t' + 3u/x + u2 = 0
両辺を u2 で割って -t' + 3t/x + 1 = 0
ここからは、§1.3 の復習です。まずは、余分な項 +1 を無視した方程式
を解きます。これの解は、t = Ax3 です。 つぎに、この A を x の式とみなして、 t = A(x )x3 を元の式 -t' + 3t/x + 1 = 0 に代入します。t' = 3t/x
これを t = A (x )x3 に代入して、 t = -x/2 + Cx3 となります。 ここで u = 1/t でしたから、[-3A (x )x2 - A' (x )x3] + 3A (x )x2 + 1 = 0
すなわち、A' (x )x3 = 1 ⇒ A' (x ) = 1/x3
A (x ) = -1/2x2 + C
となります。
u = 1
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-x/2 + Cx3
ここで、 y = u + 1/x でしたから、
となります。D = 0(C → ±∞) で特解 y = 1/x になることを確認してください。
y = 1
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x( 1
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-1/2 + Cx2+ 1 ) = 1
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x・ Cx2 + 1/2
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Cx2 - 1/2= 1
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x・ x2 + 1/2C
--------
x2 - 1/2C= 1
---
x・ x2 + D
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x2 - D(D = 1/2C)
以下では、p (x ), q (x ), r (x) を p, q, r と略させていただきます。
y = u'/pu とおきます。 まずは y' を計算しましょう。
これを元の式に代入してみましょう。
y' = - p'
---
p2・ u'
--
u+ 1
---
p・ u''u - u' 2
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u2
ここで、ふたつある u' 2/pu2 という項は相殺(そうさい)しますね。ついでに pu をかけて、 分母を払ってしまいましょう。そうすると、下のような式になります。
[ p'
---
p2・ u'
--
u+ 1
---
p・ ( u''
---
u- u' 2
--
u2) ] + u' 2
---
pu2+ qu'
---
pu+ r = 0
この形の方程式は、§3 で説明する方法で解くことができます。u'' + (q - p' /p )u' + pru = 0
実際、以前の年度には、ある学生が §1 の演習問題をすべてこの完全微分形の方法で解いてきたそうです。
あるいは、この分母を払ったP (x, y ) + Q (x, y ) dy/dx = 0
という形の方程式のうち、P = ∂Φ/∂x、 Q = ∂Φ/∂y と書けるようなものです。 この形に持ち込めれば、「Φ = 一定」というのが一般解になります。P (x, y ) dx + Q (x, y ) dy = 0
あるいは、与えられた P と Q のままでは P = ∂Φ/∂x、Q = ∂Φ/∂y という条件を満たしていなくても、適当な関数 f をかけて Pf = ∂Φ/∂x、Qf = ∂Φ/∂y とすることができれば、やはり「Φ = 一定」が解になります。
[x, x + Δx ]×[y, y + Δy ] という区間はごく小さいので、x方向・y 方向の傾きはほぼ一定だと仮定します。そうすると、
となりますね。ここで ΔΦ = Φ (x + Δx, y + Δy ) - Φ (x, y) とおき、さらに (Δx, Δy ) → 0 という極限をとってみましょう。 極限なので Δ のかわりに d という文字を使うことにします。Φ (x + Δx, y + Δy ) ≒ Φ (x, y ) + (∂Φ/∂x )Δx + (∂Φ/∂y )Δy
これを Φ の全微分と呼ぶのでしたね。 あるいは、ちょっと「高級」な書き方をすれば、次のようにも書けます。dΦ = (∂Φ/∂x ) dx + (∂Φ/∂y ) dy
dΦ = (∇Φ)・dr
ところで、いま問題にしている完全微分形の方程式は、dΦ = 0 と言っています。これは、「(x, y ) を動かしても、Φ は変わらない」ということを意味しています。だから方程式の解が 「Φ = 一定」になるわけです。
これを微分しましょう。x が動くと y も動くので、 そのぶんも考慮すると、
となります。右辺第一項の ∂Φ/∂x は、ここでは、 x につられて y が動かないとしたときの、 x の変化による影響です。dΦ/dx = ∂Φ/∂x + (∂Φ/∂y ) dy/dx
いま問題にしている完全微分形の方程式は、これがゼロだと言っています。 Φ の微分がゼロだということは、 Φ が定数だということになりますね。
結論から言ってしまえば、与えられた P と Q が完全微分形であるための必要十分条件は、
です。これを証明しましょう。∂P/∂y = ∂Q/∂x
まず、「P = ∂Φ/∂x、Q = ∂Φ/∂y なら ∂P/∂y = ∂Q/∂x」は簡単ですね。偏微分の順序交換ができることから、
になります。∂P/∂y = ∂Q/∂x = ∂2Φ/∂x∂y
問題は逆方向、「 ∂P/∂y = ∂Q/∂x なら、P = ∂Φ/∂x、Q = ∂Φ/∂y」です。
P と Q が与えられたとき、Φ を、
となるような関数と定義しましょう。この定義から、Q = ∂Φ/∂y を導きます。P = ∂Φ/∂x
まず、これを積分して
となります。ここで、積分定数(?) C が y の関数になっているのは、上の微分が偏微分で、その際に y だけの項は落ちてしまっているからです。Φ = ∫P dx + C (y )
これを逆に y で偏微分します。 微分と積分の順序交換ができることから、右辺第 1 項の ∂/∂y を積分記号の中に入れてしまうと、
∂Φ/∂y = ∫(∂P/∂y ) dx + dC/dy
ところで、 ∂P/∂y = ∂Q/∂x でしたね。 そこで、
D (y ) は積分定数(?)です。∂Φ/∂y = ∫(∂Q/∂x ) dx + dC/dy
= Q + D (y ) + dC/dy
つまり、C (y ) と D (y ) をうまく選べば、Q = ∂Φ/∂y となるような Φ が選べるのです。
【例題】 dy/dx + (2x ey + 1) / (x2ey + 2y ) = 0 を解け。
この方程式は、次のように変形できます。
(2x ey + 1) dx + (x2ey + 2y ) dy = 0
そこで、P = (2x ey + 1)、Q = (x2ey + 2y ) とおきます。 ∂P/∂y = ∂Q/∂x = 2x ey なので、この方程式は完全微分形です。
では、P と Q を積分して Φ を求めましょう。
ここで A(y) と B (x) は積分定数(?) です。Φ = ∫P dx + A (y ) = x2ey + x + A(y )
Φ = ∫Q dy + B (x ) = x2ey + y2 + B (x )
ところで、上のふたつの積分結果は、どちらも同じ Φ ですから、
になるはずですね。従って、この方程式の解は、A (y ) = y2 + C
B (x ) = x + C (C は定数)
x2ey + x + y2 = 一定
【例題】(y2 + y ) dx + x dy = 0 を解け。
P = y2 + y、Q = x とおくと、あきらかに ∂P/∂y ≠ ∂Q/∂x です。そこで、p = Pf、q = Qf とおいて、 ∂p/∂y = ∂q/∂x とすることを目指します。
P と Q に掛ける関数 f は何でもよいのですが、 まずは一番簡単なものとして、 f = xayb を考えましょう。 そうすると、
これが等しくなるためには、 ∂p/∂y 中の yb + 1 の項がなくなればよいので、 b = -2 となります。ここから、a = -2 と分かります。 よって、p と q から Φ を求めると(計算略)、 Φ = -1/xy - 1/x = 一定 となります。p = xa (yb + 2 + yb + 1) より、 ∂p/∂y = xa[(b + 2)yb + 1 + (b + 1) yb ]
q = xa + 1yb より、 ∂q/∂x = (a + 1) xayb
あっ……よく見たらこの関数は変数分離形でした(笑)。